人は生まれた時は０歳だ。
３０歳で生まれてくることもなければ、５０歳のおっさんがふわっと現出するわけでもない。
人は生まれてきてからの経験や感じたこと、なによりも考えたことを、これからを生きていくための支えとする。
だから、SFではないが、ぱっと大人として現れてしまったら、次の瞬間から、何をどうすればいいのが困惑してしまう。


沖縄戦によって彼女は家族を失った。
軍隊、いや、国がカルト化し、彼女の家族を殺したのだ。体を切り裂かれ、その血が小石に地面に流されたこと、彼女は目の当たりにしただろう。
彼女は７０年以上経った今も、自分の目玉の裏側に地面がごぼごぼと家族の血を吸い込んでいく情景を手放さずにいる。

その土を米軍の基地に利用するというのは、彼女のこれからを殺すことに等しいと私は考える。 赤錆びた鉄くずよりも赤くぬめりある土なのだ、家族の血は７０年を過ぎることで、彼女自身の血と繋がった。
彼女も最初は「石ころ一つにも血が染み付いている」という発想はなかったろう、時間をかけ、彼女は何度も、家族の血塗られた姿を思い浮かべ、なぜなんだと自問を繰り返し考えていくことで、彼女の血は殺された家族の血と繋がったのだ。
だから、その土を使って基地を作ろうと、国がするなら、７０年前に生き残った彼女を、改めて殺そうというのと同義だと私は考える。
強い権力が個人を弄ぼうとしている。
私は国を許す気にはなれない。、