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Jan 25, 2016

ないふ 流堰迷子

「ないふ 流堰迷子」

列車の中にて。
女一 帰りの電車の中、あたし、通路側。彼女、彼女だ、彼女は向かいの窓側。こう、なんていうの、二人用の座席が向かい合った列車の座席って、あぁ、なんていったっけ、あぁ、そんなことはどうでもいいんだ。
彼女、足を投げ出して気持ちよさそうに眠っている。無防備なほど気持ちよさそうに寝ている。
声を、声をかけてみようか。
で、でも・・・、ほんとは何事もなかったように、すっと立って席を替えればいいだけのことなんだ、あたしの中でもう一人のあたしが叫んでいる、逃げろ、逃げろって。
・・・透けているんだ、彼女の躰。透けて、座席が見えるんだ。
あたし、おかしくなったの。幻覚、幻影、勉強のしすぎ、ってわけない、わけない。えっ、あ・・・、そうだ、そうか、幽霊だ。彼女、幽霊なんだ。
え、あたし、どうして・・・。
本当にどうしてだろう、彼女の頬に手を触れていた。
冷たいけど、なんだか、気持ちいい。
そっと、彼女が目を開ける。口がにぃぃっと微笑んだ。
消えた・・・。あぁ、幽霊だ、昼間っから幽霊だ、春なのに幽霊だ。
逃げろ、逃げろ、逃げるんだ。

女二 なんだよぉ、人が気持ちよく寝ているのにさ

女一 あたしの耳元で声がした。うわっ、目の前に顔がぁ

女二 おおい、叫ぶなよ。恥ずかしいぜ。女の子が白昼の列車の中、一人、座席で大声あげたらさ、なにぃ、この娘(こ)、変なんじゃない、ってさ、白い目で見られてしまうぜ。ふふっ。
女1 彼女、あたしに顔を寄せて、あ・・・、口づけ、やわらかくて少し甘くて、あたし、あたし・・・
女2 大丈夫さ、数には入らないよ

女1 なんだか、足の力が抜けてしまって、あたし、座席にぺたんって座り込んでしまっている。何をどうすればいいんだ
女2 何処で降りるんだ
女1 叶意町(かないまち)、二つ先の駅です
女2 時間あるね、少し、お喋りしよう
女1 にぃぃぃって笑って、彼女、幽霊さんがあぐらをかく、長いスカートだから、あ、足。足はあるんだなぁ・・・
女2 あんた、名前は
女1 私、幸子です。
女2 どんな字書くの
女1 幸せな子
女2 親の願いが詰まった名前だ、いいね、そういう名前
女1 あの、貴方は
女2 覚えてないんだ
女1 それは死んだ、いえ、あの、お亡くなりになった時のショックで
女2 いや、死んだ時は名前を覚えていた。覚えていたんだという記憶はある。結局さ、あたし、いま、一人だからさ、名前を呼んでくれる人がいないんだよ。だから、どうしても思い出せない、思い出せず、何処に帰れば良いのかもわからずに漂っている。
女1 思い出せれば、成仏できるのでしょうか
女2 さてね、そもそもさ、成仏ってどういうことかわからないよ、やったことないからさ。ただ、自分が居るべき場所があって、なんっていうかな、いま迷子になってんだって焦りばかりがある
女1 幽霊さん、ちょっと笑った、でも、それはとっても哀しい笑顔だ。
女1 名前を思い出しましょう、そうすれば、必ず道が見つかります
女2 どうしたの、いきなり
女1 あ、え、いえ、あたし・・・
女2 でも、面白そうだ、駅に着くまで女の子の名前を出し合ってみよう、なんか、引っ掛かるかもしれない
女1 そうしましょう、きっと見つかりますっ
女1 あたし、どうしてだろう、ぎゅっと幽霊さんの手を握っていた。ひんやりとしてとっても冷たい、でも、不思議、優しいんだ

間、少しずつ大きく

女1 恵子、洋子、良子
女2 あかね、明美、幸江
女1 恵美子、裕子、礼子
女2 あ・・・
女1 気になるのありましたか
女2 そうだ、「子」が付いていた気がする
叶意町、到着のアナウンス、ドアが開く音。
女2 ありがと、なんだかさ、幸ちゃんとはまた会えるような気がする。いつか会える時までに、しっかり自分の名前を思い出しておくよ
女1 嫌です、思い出すまでお付き合いします
女2 え・・・

ドアの閉まる音、列車が遠ざかって行く。
女2 列車から降りることはできる、ただ、駅からは出られないんだ。多分、降りるはずの駅が何処かにあるんだろうって思っているんだけどね
女1 ごめんなさい
女2 はは、幸ちゃん、必死な顔していた
女1 なんだか、どうしても、このまま、別れるのが寂しくて
女2 出会いに偶然はない、すべては必然だと言い切ったっ奴がいた。多分、この出会いも必然なんだろう、左の手首出してみな
女1 え・・・
女1 おそるおそる差し出した
女2 手首のためらい傷、随分とあるね。痛かったろう
女1 はい
女2 でも、痛いと感じる自分がいることで、ほんの少しだけ、生きているって実感を得ることができる
女1 どうしてだろう、泣きそうになりながら、あたし、頷いている
女1 幽霊さん、髪を一本抜いた、そして、その髪をあたしの左手首に巻いてくれた。ひんやりして気持ちが良い
女2 護り髪だ、神様の神転じて髪の毛の髪。幸ちゃんの手首に溶け込んで、髪が災いから護ってくれるだろう。
女1 ありがとう・・・、ございます
女2 しかし、護り髪、どうして、こんなこと知ってんだろう。生きている時、あたしは呪い師か詐欺師だったのかも知れないな。
女1 幽霊さんはとてもいい人です
女2 わかんないぜ
女2、くすぐったそうに笑う。
女2 今日はありがとう、あたしも久しぶりに笑った。さて、幸ちゃん、もう帰りな、そろそろ暗くなる
女1 でも、名前を
女2 今はこれ以上思い出すのは無理だ。
女1 どうして
女2 なんとなくだけどわかってきた気がする。
女2 あたしがこうして彷徨っているのは、何かの役目か、自分の罪を滅するためのやり方なんだ。
女1 役目・・・、やり方
女2 こうして彷徨って、出会うべき必然を待つってことさ。出会い、相手になんらかの益を提供することで、あたしはあたしを、ほんの少しずつ取り戻して行く。気の長い話だ
女1 あたしとの出会いはもう済んだということなのでしょうか
女2 いや、始まったということ。この出会いであたしは少し変わった。幸ちゃんも少し変わった。成長という変化を始めた。手首を切らずに生きて行ける、そんな行き方を幸ちゃんは見つけなければならないし、見つけようとするだろう。いっとき、重なった道筋は、また、離れて行く、でも、それは始まりだ。出会うことで縁ができた、この縁はいずれ、あたしを幸ちゃんに会わせるだろう。その時を楽しみにしているよ
女1 はいっ
女2 泣いた子供がもう笑った
女1 子供じゃないですよ
女2は小さく笑う。
女1 幽霊さん、手を振ってくれた。あたしも、そっと手を振る。少しずつ、幽霊さんの姿が薄れていく。消えた・・・。
女1 寂しい、とても寂しい。でも、あたしは今までで一番元気だ。前へ進んでいくことが出来る。

おわり

 


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