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Jan 25, 2016

霞は晴れて

「霞は晴れて」
物部俊之

現実。病院の一室、機械の作動音。
母 「はい。これが・・・」
医者 「ええ、グラフのここのところを見てください。これは三日間の彼女の脳波ですが、この大きな波が夢を見ている状態です。ほら、ずっと続いているでしょう」
母 「これって・・・、ずっと。まさか」
医者 「普通は夢を見ている時間、見ていない時間が交互に繰り返されるのですが、彼女の場合、常時、夢を見ています。良い状態ではありませんね、肉体的にも精神的にもかなり衰弱しています」
母、叫ぶように。
母 「か、霞、霞。起きなさい、霞ー」
頬を叩く音。
霞二 「あ、痛てて、叩かないでよ、母さん。心配なのはわかるけど、もっと自分の娘を信用しろっていうの。もう、あのおおぼけ霞、何処、行ったんだろ。さんざん、駆けずりまわさせやがって。あぁ、もう、私、一人だけじゃ夢から目覚められないよ。本当に・・・、私・・・、夢から覚めること・・・。とっ、とにかく。もう一人の私、見つけだして、絶対、現実に帰ってやる」
霞二 「ん・・・。立て看板。城下町入り口・・・。もう。今度は霞の奴」
門番 「こら、何者だ。手形を見せろ」
霞二 「なによ、あんた」
門番 「なんだと。・・・おおっ、これは姫様。これは失礼いたしました、しかし、いったい」
霞二 「ほぉ・・・。お忍び、お忍び。だから、私のこと、誰にも言わないように」
門番 「ははっ。御意にございまする」
霞二 「あいつ、今度はお姫様をやってるのか。まっ、前のよりかはましだな。でも、お姫様ってことは・・・。うーん、あの向こうのお城。よし」

魔術師 「もうお一人の霞様がこの城下町にお入りになられた様子にございます」
霞一 「そう。あいつの行動力なら、そろそろ、ここにもやって来そうね」
魔術師 「私の入手致しました情報によりますと、かの霞様は現実へ戻ろうとなされているご様子」
霞一 「うん、それって問題じゃないの。じゃ、あんな奴は抹殺。あ、だけど、もう一人の私、いなくなったら、私もひょっとして消えてしまったりして。うーん、そうだ、ここに引き連れて、幽閉してしまおう。私って悪役」
霞二 「てゃーっ。男の後頭、蹴とばした」
魔術師 「うおぉー」
霞二、荒い息で。
霞二 「やっと・・・。お初にお目に掛かります、霞様。ご清祥の砌、何よりにございます」
霞一 「あら、ひねくれ霞さん。ありがと、私の魔術師を足蹴にしてくれて」
霞二 「何よ、ひねくれ霞なんて。おおぼけ霞さんには言われたかないわ」
霞一 「おおぼけ・・・。情けない、もう一人の私がこんな品のない人間だなんて」
霞二 「ふん、うるさいわね。さ、霞。現実に帰るよ」
霞一 「何言ってるの、ここ、現実だよ」
霞二 「あん。何処の現実に王子様が竜にタロットで恋を占ってもらってるのよ」
霞一 「いいじゃない。私、タロット占い好きだもん」
霞二 「そうそう、好きだもんね。ついでにその王子様から、あんたへの伝言。僕を捨てないでって。私、こういう奴、身震いするほど嫌いなのに」
霞一 「はは、王子様、元気にしているようだね。白馬に乗った王子様とのラブ・シーン、結構楽しかった」
霞二 「そのあとはあんた、盗賊の首領になったでしょう、私、散々兵隊に追いかけ廻されたんだから」
霞一 「なるほど、じゃ、次は似せ魔道士だね」
霞二 「竜を呼び出すよって、お金取ってとんずらした・・・。私、ここでも散々金返せと追いかけ廻されました」
霞一 「それは、それはご苦労さま」
魔術師 「これは、これは、もう一人の霞様、いきなりでびっくり・・・」
霞一と二、魔術師の言葉を遮って。
霞一と二 「うるさい、静かにして。これは私達の問題なんだから」
魔術師、気圧されて。
魔術師 「は、はぁ・・・」
霞一 「ね、自由に世界を創ることができるんだよ、あんたも好きなように創ればいいのに」
霞二 「あんたねー。私は現実に帰りたいのよ」
霞一 「どうして。好きなように世界、創れるんだよ」
霞二 「私は嫌なの。そういうの。ね、あんた、神様にでもなったつもり」
霞一 「そうだ、霞。二人で神様になろう、世界を私たちで創ろう」
霞二 「そういうのをね、昔から誇大妄想っていうの、知ってる」
霞一 「知っているよ、それくらい。そしてもう一つ知っている。わかるかな、私が実際に世界を創りだすだけの力を持っているっていうこと。ね、霞、思い通りの世界を創ることができるんだよ。夢に描いて来たこと、すべてを実現できるのよ」
霞二 「夢という現実でね。本当の現実では、私たち、病院のベッドに寝ているんだよ」
霞一 「それこそ夢だよ、ね、荘子の蝶の話、知ってるよね。自分は実在しているのか」
霞二 「それともただの夢の住人なのか」
霞一 「私にとってはこの世界こそ、現実。病院のベッドなんて、ただの夢」
霞二 「霞。そんなの、ただの逃げでしかないよ」
霞二、静かに、諭すように。
霞二 「わかるよ、霞。私とあんたは二人で一人。あんたの思い、痛いほど。わかる。私も思うよ、現実なんてちょっとも面白くない、悲しみや苦しみばっかり」
霞一 「そうだよ、ね、霞は本当の現実って言うけど、本当に現実で生きているって言える。息しているだけじゃ生きていることにならないんだよ」
霞二 「わかっているよ、家では勉強しなさい、塾へ行きなさい。そして、学校に行けばいじめで一杯、先生達は君、そんなのいじめのうちに入らないよって、涼しい顔」
霞一 「私はもう嫌なの、そんな世界が。ね、生きるっていうのは本当は楽しくて、ずっと素敵なものじゃないの」
霞二 「元は一人の霞、私もそう思うよ。でも」
霞一 「確かにベッドで寝ている私、衰弱死でもしたら、私もあんたも、何もかもが消えてしまうでしょうね。でも、あんたの云う現実で齢取って死ぬまでの時間と、ほんの数日かもしれない、でも楽しく精一杯生きていく時間とどっちが本当に生きていると思う」
霞二 「それは・・・」
霞一 「私は現実に生きたいの、私の創った、精一杯生きていけるこの現実にね」
霞二 「私、あんたに言い返す言葉、持ってない。でも、でも、悔しいのよ。逃げるのが嫌なの。ね、霞、夢を夢の中で創らずに、現実を、嫌な現実だけど、その現実の中に夢を創っていこうよ。嫌なこと、辛いこと、一杯ある、なら現実の中でそれを一つ一つ乗り越えて行こう。今のままじゃ逃げているだけだよ」
霞一 「・・・わかってるよ、それくらいのこと。頭の出来は同じなんだから・・・」
霞一、呟くように。
霞一「聞こえてるのよ、私にも。母さんの呼ぶ声が」
霞一、叫ぶ。
霞一 「魔術師、いるか」
魔術師、呟きから始まって。
魔術師 「だから嫌なんだ、最近の娘ときたら。昔はもっと、清純で大和なでしこのような・・・。え・・・、ははっ、控えてございます」
霞一 「何、ぶつぶつ言っているのよ。私、現実に帰ります。夢はこれにて終わり」
魔術師 「それは無理にございます。この夢は貴女方の創った夢ではなく、私の創った悪夢にございますから」
霞一 「なに、どういうこと」
魔術師 「やっと悪夢らしくなってきた夢にございます。もっと育てて、賞味させていただきとうございます」
霞一 「いったい、何を言っているのよ」
霞二 「悪夢を食べる。まさか、獏」
魔術師 「はっ、その通り私は悪夢を食する獏にございます。今までは悪夢を探し、旅してまいりましたが、考えてみますに、悪夢を創り、育てていくほうが、探す手間も省けます。それで今回、このような夢を演出させていただきました、それでは」
魔術師、微かに笑うように。
魔術師 「素敵な悪夢をご堪能くださいませ、二人の姫様」
霞一と二 「消えた・・・」
霞一 「誰か、誰かいないか」
霞二 「窓から、外を眺めてみる。町を行き交う人、人形のように止まったまま。あ、鳥、宙に浮いたまま停止している」
霞一 「じゃ、私たち、夢に閉じ込められたってこと」
霞二 「そのようね。いったい、どうしたら・・・。ん、なんだか、寒くない」
霞一 「そういえば急に寒くなって来た」
二人近づいて。
霞二 「大丈夫だよ、霞、私が抱いててあげるから」
霞一 「あ・・・、霞」
霞二 「ね・・・。霞はわかっているよね、私の気持ち」
霞一 「え・・・。あ、あ、う、うん」
霞二 「じゃ、目をつぶって」
霞一 「目を・・・」
霞二 「そう。安心しなさいな。私達、二人で一人の霞じゃない」
霞一 「う、うん。じゃ、目をつぶる」
霞二 「キスしてあげる」
亀裂、響くような金属音。
霞一、微かなうめき。漏れる吐息。
霞一 「か、霞・・・。どうして・・・」
霞二 「私、自分のこと愛しているもの。だから、霞のこと、好き。ね、霞は私のこと、嫌い・・・」
霞一 「そ、そんなことない・・・。でも、急に・・・、だから」
霞二 「私、二人っきりだなと感じたとき、自分の気持ちに気づいたんだ。本当に霞のこと、大切に思っていたんだって。そして、愛している」
霞一 「私、私・・・」
霞二 「この世界、私達二人っきりなんだよ、誰の目もない、私達だけ。正直になろう」
霞一 「う、うん。私も霞、愛している」
霞二 「じゃ、お礼言わなきゃ。ね、一緒に言おう、いい」
霞一 「う、うん」
霞一と二、声をあわせて大きく。
霞一と二 「獏さん。幸せな幸せな夢をありがとう」
男のうめき声、ガラスの割れる音。
霞二 「よおし、やった。あいつ、悪夢じゃなくなってお腹こわしたんだ」
霞一 「え・・・、じゃ、霞、今の・・・。お芝居」
霞二 「霞。まさか・・・、本当に」
霞一 「まっ、まさか。ちゃんとわかってたよ。本当、本当なんだから。あれ、霞、雨降って来た」
霞二 「本当、晴れているのに」
霞一 「ね、この雨、青い色してる、空の色みたい・・・」
病院の一室、医療機械の作動音。
霞二 「何とか現実に帰れたみたいだね」
霞一 「そうだね、あ、念のために頬をつねってみよ」
霞一と二 「痛っ」
霞一と二、少し笑って。
霞一 「ね・・・」
霞二 「ん・・・、何」
霞一 「ごめん、本当にごめんなさい」
霞二 「え・・・」
霞一 「今更、何いってんのよって思うだろうけど、反省・・・、してる」
霞二 「いいよ、もう、それに私も」
霞一 「え・・・」
霞二 「ちょっとうらやましかったんだ」
霞一 「私が・・・」
霞二、少し笑って。それから急にびっくりしたように。
霞二 「・・・あ、ここ、現実だよね」
霞一 「うん」
霞二 「だったら、なんで私たち二人いるのよ」
霞一 「きゃっは、嬉し。私達、いつも一緒」
霞二 「もう、しがみつかないでよ」
霞一 「よし、こうなったら仕方ない」
霞二 「え。なんかいい方法・・・」
霞一 「一卵性美人姉妹のアイドル誕生。私達、一緒に頂点を目指すのよ」
霞二 「なに気楽なこと言ってのよ」
霞一 「はは、ごめん。でも、いったい・・・」
霞二 「まさか、まだ夢の中ってこと」
霞一 「ても、頬、痛かった」
遠くから、一人の足音が伝わって来る。
霞一 「あ、足音」
霞二 「ね、私の考えてることわかる」
霞一 「もちろん」
霞二 「本当にわかっているんでしょうね。もし、奴だったら、今度は波瀾万丈の冒険活劇が始まるんだよ。いいね」
霞一 「うん。なんか面白くなってきた」
霞二 「まっ、ね。・・・せいのぉで」
病室のドアが開く、それと同時に。霞一と二、二人で声を合わせて、元気良く。そして、少し攻撃的に。
霞一と二 「ただいま、お母さん」


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